寄附金と移転価格 その違いは?

移転価格

税務調査を受けて、海外子会社との取引について、寄附金が論点になるケースが多々あります。この場合、同じ取引でも「寄附金」と指摘される場合と、「移転価格」と 指摘される場合とがあります。

なぜこのようなことが発生するのか、事例から確認します。

寄附金と移転価格の定義

「寄附金の額」の定義

以下は、「 寄附金の額」の定義です。

寄附とはどのような行為であるかを読み取ることができます。

寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝費、見本品費、交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く)をした場合におけるその金銭の額若しくは金銭以外の資産の贈与時の価額又は経済的利益の供与時の価額による

(法人税法37条7項)

「移転価格」の定義

調査において、次に掲げるような事実が認められた場合には、措置法第66条の4第3項の規定の適用があることに留意する。

イ 法人が国外関連者に対して資産の販売、金銭の貸付、役務の提供その他の取引(以下「資産の販売等」という)を行い、かつ、当該資産の販売等に係る収益の計上を行っていない場合において、当該資産の販売等が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に該当するとき

移転価格事務運営指針3-20 国外関連者に対する寄附金

ここでいう措置法第66条の4第3項の規定の適用がある」とは、移転価格税制の適用を受けることを意味します。

移転価格税制の適用を受ける可能性がある場合は、日本で計上されるべき所得が海外に移転している可能性を検討することになります。

どのような場合に寄附金、移転価格の問題になるか

たとえば、日本法人が海外に子会社を設立したばかりで、子会社の経営が軌道に乗るまでは「親会社が財政的に支援したい」という親会社の意向がある場合があります。

また、海外で買収した会社の業績がなかなか上向かないが、親会社が経済的に支援することで買収した事業の業績を良く見せたいという親会社の意向がある場合もあり、様々な思惑で日本法人による子会社支援が行われることがあります。

税務調査では役務提供、商品売買の取引の背景、経緯を読み取ることができる書類が精査され、事情を知る経理担当者等がヒアリングされます。親子会社間の役務提供等について、子会社から適正な対価を収受(収益計上)していない場合には、子会社に対する経済的利益の無償の供与に該当する旨の指摘を受けます。

親会社としての責務がある場合

親子会社間の取引の背景、目的について、寄附の対象先である海外子会社の財政状態、経営成績を理由にした場合は「寄附金」であると税務調査で指摘される可能性が高くなります。

そのような指摘を受けるのを避けるためには、子会社に対して役務提供等を行う場合において、その取引は、あくまでも親会社(自社)の利益のため、または親会社としての業務を遂行するために必要な役務であったと説明することが重要です。

ただし、そのように説明するためには、それを実証できる一連の資料を事前に整備しておくことが欠かせません。そのためには、新しい取引が発生した時から、寄附に該当するリスクの有無を検討し、寄附に該当しないと説明することを意識して、契約書、稟議書、請求書等の書類を作成、保存します。

なお、親会社の責務として、親会社の経済的負担により遂行すべき業務は、移転価格の株主活動において列挙されています。

これは親会社の経済的負担負担で遂行することが妥当である業務であり、もし子会社が当該活動に係る費用を負担した場合は、親会社が負担すべき費用を子会社が負担したのではないかという論点が発生しうるものです。現地国の税収が減ることになるこの論点は、日本の税務調査では問題にならず、現地国における移転価格の税務調査で問題になる可能性があります。

なぜ寄附金の問題か移転価格の問題かはっきりしないのか

一般論では、親子間の取引価格の操作を通じた所得移転を防止するのが移転価格税制であり、金銭贈与や無償の役務提供、債権放棄等による利益供与を防止するのが寄附金課税であると考えられています。

しかし、実務上は「移転価格税制」と「国外関連者に対する寄附金」について明確に区分するのは困難な場面が多々あります。税務調査の現場では、移転価格税制の対象となる可能性がある取引であっても、国外関連者への寄附金として課税されるケースが多々あります。

なお、2012年7月から2013年6月までに日本企業が海外との取引で当局から申告漏れを指摘された事例のうち、約60%が寄附金課税として追徴課税され、移転価格税制の適用は約20%にとどまっています。

税務調査において、国税局の調査部門が、移転価格の問題として課税する場合は、自部門内だけで課税することができず、移転価格部門と協力して調査及び課税をする必要があります。一方、寄附金の問題であるとして課税する場合は、移転価格部門の関与なく、自部門の権限のみで課税することができるのです。

そのため、調査部門は寄附金として処理するほうが内部の事務処理が簡便であり、移転価格・寄附金いずれもの観点から問題になりうる取引について「寄附金」として主張してくるのです。

なお、課税される会社側においては、その取引の処理について会社側に非があったことを理解できれば、寄附金であろうと移転価格であろうと追加で納税せざるを得ないことは明らかです。税務調査を早く決着させ、事務処理を終えようという点で調査部門と利害が一致し、では「寄附金」で処理をしましょうということになるのです。

寄附金として課税された場合の課題

会社側の税務処理に非があった場合は、調査で指摘された取引については税金計算をやり直し、今後は処理を改めるという流れになります。

ただし、寄附金として課税を受けた場合、寄附金課税は国内法上の問題であるという理由で、租税条約に基づく相互協議を行うことが難しくなります。そのため、寄附金課税を受けると移転価格課税に比べて二重課税の解消は困難になります。

最近の税務調査の傾向

税務署所管法人の中小企業に対する調査においては、海外子会社との棚卸資産販売取引の価格設定方法貸付金利の利率等についての調査が増加傾向にあります。

海外子会社に対する役務提供対価の未回収出向者に対する較差補てん金が移転価格でなく寄附金として課税されてきています。

日々の業務において、寄附金、移転価格の観点でリスクがないかを常に意識することが大切です。リスクが想定される場合は、そのリスクを最小限にできるよう、その取引に係る課題について熟考し、書類整備を行うことが大切です。

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